時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜

時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-29
Oleh:  白浪まだらBaru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
goodnovel12goodnovel
Belum ada penilaian
71Bab
8.8KDibaca
Baca
Tambahkan

Share:  

Lapor
Ringkasan
Katalog
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi

 ある日、勇者として覚醒した青年セリュオスは、各地で仲間を集め魔王エレージアに挑んだ。だが、圧倒的な力の前に彼らは追い詰められ、ついには衝撃の真実を知らされる。 「ーー私の命は過去の文明に七つある。過去の時代に遡って、すべての魔王の命を滅ぼさなければ、現代に生きる私の命が尽きることはない……」  仲間たちが絶望する中、セリュオスだけは一人諦めていなかった。禁忌の魔術《時空追放(テンプス•エクシリウム)》を発動して過去の時代に遡る決断をする。  そこで彼を待っていたのは、かつての歴史にふうじられた全く別の世界だった。勇者と魔王、宿命に導かれた二人の長き戦いの物語がここに始まるーー。

Lihat lebih banyak

Bab 1

第1話「勇者が生まれた日」

 この世界――アルスヴェリアには、とある勇者の伽噺話おとぎばなしがある。

 真っ暗な地中世界、緑あふれる樹海、呼吸すら困難な毒沼地帯。

 燃えたぎる火山の国、すべてが凍った景色。

 金銀の輝かしい財宝、そして天空を支配する霹靂へきれきの魔王。

 まさに勇者の大冒険。

 それは遥か昔から伝えられてきた古いお話だ。

 辺境のリオネルディアの村に住む青年のセリュオスは、その御伽話が子どもの頃から大好きだった。

 勇者になった者が共に戦う仲間を集めて、人間たちを苦しめる魔王を倒すどこにでもあるような伝承。

 でも、その勇者には普通と違う点が一つだけあった。

 それは時を越えて魔王と戦い続ける勇者だったのだ。

 いつか自分も勇者になって魔王を倒すことができたら――。

 だが、そんなことは決してあり得ない。

 自分はただのしがない鍛冶師の息子なのだから。

 将来、自分も同じように金槌かなづちを振るって、村の者たちの役に立つ道具を作り続けるのだ。

 その日の夜は、不思議な静けさに包まれていた。

 昼間まで子供たちの笑い声が響いていた小道も、家畜の鳴き声で賑やかだった厩舎きゅうしゃも、息を潜めるように黙り込んでいる。

 冷えた風が木立をざわめかせ、まるで森そのものが何かを警告しているかのようだった。

「どうも胸騒ぎがする……」

 村長が広場に立ち、そうつぶやいた時だった。

 闇の中から、かすかなうめき声のようなものが聞こえてきた。

 血の匂いが風に混じり、やがて大地を震わせる重い足音が忍び寄ってくる。

 村人たちは一斉に身を寄せ合い、灯火を掲げて森の入り口を見つめた。

 やがて木々を押しのけるように現れたのは、黒き巨狼――ルゥン・ヴォルフ。

 月明かりに照らされたその毛並みは墨のように黒く、身体を走る赤い紋様が脈打つたびに瘴気しょうきのようなものがあふれ出していた。

 目は血のように赤く光り、口から滴るよだれは地面をがす。

「……で、出た…! 魔王軍の尖兵せんぺいだ!」

 誰かが叫んだ瞬間、村に戦慄が走った。

 老人は膝をつき、女たちは我が子を抱きしめ、若者たちでさえ足をすくませて動けないでいる。

 ルゥン・ヴォルフ――かつて戦乱の時代に幾つもの村々を滅ぼした災厄の獣。

 その背に刻まれた黒い印は、まさに魔王軍の使いである証だと言われている。

 すると、セリュオスの義父であるオルフェンが果敢に前へ進み出た。

「義父さん……?」

 オルフェンは大きな鉄槌を肩に担ぎ、息子のように育ててきたセリュオスを守ろうとしたのだ。

「戦えない者は下がってろ! 村のみんなで逃げるための準備をしてくれ! オレが時間を稼ぐ!」

 しかし、村人たちはおびえた様子のまま動き出そうとしなかった。

 知っているのだ、この怪物を討てるはずがないということを。

 たとえ、どれだけ力自慢のオルフェンであっても、その事実に抗うことはできないだろうと。

「なんで、みんな逃げないんだよッ! 義父さんが戦っている間に早く逃げろ!」

 セリュオスが村人たちを避難させようと大声を出すが、彼らはまるで山のように動かなかった。

「はぁ……!」

 そんな中、オルフェンは恐れを飲み込み、家族と村を守るために足を止めなかった。

 ルゥン・ヴォルフの低いうなり声が夜の空気を震わせる。

 その時、セリュオスは嫌な予感がした。

 このまま見ていたら、父親が無惨に殺されてしまいそうな胸騒ぎだった。

 根拠なんて一つもない。

 だが、絶対に後悔することになると思ったのだ。

 次の瞬間、巨狼はオルフェンに向かって稲妻のように飛びかかった。

 その爪はオルフェンの首を狙いましている。

「やぁああああめろぉぉぉッ!」

 セリュオスは考えるよりも先に、自身の身体を投げ出していた。

 その勢いのままにオルフェンを突き飛ばし、自らがその爪を受け止める。

「セリュオスッ!?」

 その凶悪な力は、今にもセリュオスを押し潰しそうだった。

 武器も何も持たず、自身を支えているのはほんの僅かな魔力だった。

 自分が先だってしまったら、オルフェンは悲しんでしまうかもしれない。

 義母のセリナは三日三晩寝込んでしまうかもしれない。

 それでも、セリュオスの力でこの村を守ることができれば……。

「俺は……俺はぁぁぁぁああ!!! この村を――!!」

 巨狼の力は魔力すらも貫通し、セリュオスの骨をきしませ、意識すらも闇に飲まれそうになったその刹那――。

 突然、光が走った。

 セリュオスの左手の甲に灼熱しゃくねつの痛みが走り、まばゆい輝きが夜の闇を裂く。

 そこには、見たこともない文字が連なっており、太陽を模したような紋章が浮かび上がっていた。

 光は巨狼の爪を弾き返し、まるで瘴気を浄化するように燃え広がっていく。

「な……紋章……!? あれは、勇者の……!」

「あの伝承は、本当だったのか……」

 村人たちが驚愕きょうがくと歓喜に声を上げている。

 老いた村長は震える手を合わせ、涙をこぼしていた。

「痛く、ない……」

 セリュオスは息を荒げながら、自分の左手を見つめる。

 確かに刻まれた紋章は熱を放ち、心臓の鼓動と同調するように輝いていた。

 それはまるで御伽話で聞いて憧れていた存在にそっくりだった。

 光輝く紋章が意味することを、セリュオスはすぐに理解した。

 ――自分が、勇者に選ばれたのだと。

 しかし、巨狼はひるむどころか、怒り狂ったように咆哮ほうこうを上げた。

 瘴気が渦を巻き、村人たちはさらに後ずさる。

「俺なら、勇者なら、やれるのか……!?」

 だが、セリュオスは義父の落とした鉄槌てっついを掴み、震える手で構えた。

 光に導かれるように、一歩、また一歩と巨狼に近づいていく。

 恐怖でその膝は震えていた。

 それでも、背後には家族と村人たちがいる以上、セリュオスが退くことは許されなかった。

 巨狼の爪と鉄槌が激突し、轟音ごうおんが夜空に響く。

 その衝撃は凄まじく、普通の人間なら即座に吹き飛ばされるほどだっただろう。

 しかし、手の甲の紋章が輝きを放ち、セリュオスを支えていた。

「うぉぉおおおッ!」

 セリュオスが叫びと共に振り下ろした鉄槌は巨狼の顎を砕き、火花を散らして大地さえも揺るがした。

 ルゥン・ヴォルフは苦悶くもんの声を上げると、赤い光を散らしながらよろめく。

 そして、セリュオスに向かって一歩踏み出したと思いきや、その場に倒れ伏したのだった。

 その場に残されたのは、焦げた土の匂いと震える村人たちの吐息だけだった。

「……勝った……のか?」

「弱虫セリュオスが……?」

 誰もが目の前で起こった光景を信じられずにいた。

 今まではただの村人でしかなかった青年が魔王軍の尖兵を倒してしまったのだ。

「あなたは、何てことを……」

 駆けつけて来たセリナは涙をこぼし、セリュオスの背にすがりついてきた。

 オルフェンは無言で肩をたたいている。

 その力強さは血の繋がらない息子を誇りに思っているかのようだった。

「間違いない……。その紋章は伝承にて語られし勇者の証。セリュオス……おぬしこそ、魔王に抗うことのできる唯一の希望なのじゃ」

 村長は深く息を吸い、重々しい声で告げる。

 すると、村人たちの目が恐怖から希望へと変わっていく。

 とはいえ、彼らの胸には言い知れぬ不安も残っていた。

 魔王軍の尖兵が現れ、勇者が誕生したということは、魔王軍の侵攻が本格化するということに他ならないからだ。

 それと同時に、勇者の存在は絶望のふちに光をもたらした。

「俺……本当に、勇者になったんだ……」

 セリュオスは唇をみしめ、左手の紋章を見つめた。

 自分が勇者として選ばれた意味は何だろうか。

 それは――守ること。

 義母であるセリナを、義父であるオルフェンを、このリオネルディアの村を、そしてこのアルスヴェリアの世界を。

「……俺、行きます。みんなが平和に暮らせる世界になるように、魔王軍と戦います……!」

 それはかすれた声だったが、確固たる決意が込められていた。

 村人たちの視線が一斉にセリュオスへと注がれる。

 彼らはただ沈黙し、そして静かにうなずいた。

 セリュオスに命運を託したのだ。

 光を宿した左手の紋章、村を守るように立つ姿――彼が「勇者」であることは疑いようがなかった。

「セリュオス……お前が、勇者になっちまうなんてな……」

 オルフェンが言葉を詰まらせる。

 その表情は喜ばしい感情と同時に哀愁を帯びていた。

「どうして、あなたなの……」

 セリナは震える手で息子の頬をそっと優しくで、静かに涙をこぼした。

 両親を見つめながら、セリュオスは拳をグッと握り締める。

 その夜、リオネルディアの村に勇者セリュオスが誕生した。

 この時から、セリュオスの長き戦いの日々が始まったのだった――。

Tampilkan Lebih Banyak
Bab Selanjutnya
Unduh

Bab terbaru

Bab Lainnya
Tidak ada komentar
71 Bab
第1話「勇者が生まれた日」
 この世界――アルスヴェリアには、とある勇者の伽噺話がある。 真っ暗な地中世界、緑溢れる樹海、呼吸すら困難な毒沼地帯。  燃え滾る火山の国、すべてが凍った景色。  金銀の輝かしい財宝、そして天空を支配する霹靂の魔王。 まさに勇者の大冒険。  それは遥か昔から伝えられてきた古いお話だ。 辺境のリオネルディアの村に住む青年のセリュオスは、その御伽話が子どもの頃から大好きだった。  勇者になった者が共に戦う仲間を集めて、人間たちを苦しめる魔王を倒すどこにでもあるような伝承。 でも、その勇者には普通と違う点が一つだけあった。  それは時を越えて魔王と戦い続ける勇者だったのだ。 いつか自分も勇者になって魔王を倒すことができたら――。  だが、そんなことは決してあり得ない。 自分はただのしがない鍛冶師の息子なのだから。  将来、自分も同じように金槌を振るって、村の者たちの役に立つ道具を作り続けるのだ。 その日の夜は、不思議な静けさに包まれていた。  昼間まで子供たちの笑い声が響いていた小道も、家畜の鳴き声で賑やかだった厩舎も、息を潜めるように黙り込んでいる。  冷えた風が木立をざわめかせ、まるで森そのものが何かを警告しているかのようだった。「どうも胸騒ぎがする……」  村長が広場に立ち、そう呟いた時だった。 闇の中から、かすかな呻き声のようなものが聞こえてきた。  血の匂いが風に混じり、やがて大地を震わせる重い足音が忍び寄ってくる。  村人たちは一斉に身を寄せ合い、灯火を掲げて森の入り口を見つめた。 やがて木々を押しのけるように現れたのは、黒き巨狼――ルゥン・ヴォルフ。  月明かりに照らされたその毛並みは墨のように黒く、身体を走る赤い紋様が脈打つたびに瘴気のようなものが溢れ出していた。  目は血のように赤く光り、口から滴る涎は地面を焦がす。「……で、出た…! 魔王軍の尖兵だ!」  誰かが叫んだ瞬間、村に戦慄が走った。  老人は膝をつき、女たちは我が子を抱きしめ、若者たちでさえ足を竦ませて動けないでいる。 ルゥン・ヴォルフ――かつて戦乱の時代に幾つもの村々
Baca selengkapnya
第2話「旅立ち」
 ルゥン・ヴォルフ――魔王軍の尖兵である巨狼を退けた夜から、村の空気は一変した。  村人の誰もが震えながらも、勇者の紋章を宿した青年の存在に希望を見出していた。 そして勇者として覚醒することになったセリュオス自身は、自分が魔王軍と戦うことの意味を真剣に考えるようになった。  今までのように義父母の手伝いをしているだけではいられなくなったのだ。「魔王軍の侵攻がすぐに始まるだろう。勇者は早々に旅立たねばならぬぞ」  翌朝の村会議で、村長がセリュオスに向かって告げた。 そう告げられた時、セリュオスはある悩みを抱えていた。  その時は、ただ拳を握り締めて俯くことしかできなかった。「勇者、か……」  おとぎ話で聞いた勇者の旅というものは、一人でおこなうものではなかった。  勇者と共に支え合うような逞しい仲間たちがいたはずだ。 勇者は必ず何人かの仲間を見つけて、共に助け合って魔王に挑んだと聞いたことがある。  旅立つ時にはすでに仲間がいることが多かった。 とはいえ、村人の中から戦えそうな者を連れて行くのは違うように思っていたのだ。  セリュオスが不在の間に故郷の村が襲われてしまうのも本意ではない。 村には義父オルフェンも義母セリナも残ることになる。  彼らの命が何よりも心配だった。  セリュオスの胸に焼き付いていたのは、勇者となった際に輝いた光の紋章と、恐怖に震える義母の手の感触だった。「一人で行くしか、ないよな……」 それからの日々は、旅立ちの準備に費やすことになった。  義父のオルフェンは鍛冶場に籠り、炉の火を絶やすことなく鎚を振るっていた。  それは古びた剣を一度解体し、勇者の手に相応しい新たな剣を鍛え直すためだった。 カンッカンッと鋼を打ち鳴らす音は、村全体に響き渡った。  皆がその甲高い音を聞きながら、勇者が武器を得て旅立ちの日を迎える確信を心に刻み込んでいたことだろう。 義母のセリナは、夜ごとに糸車を回し、マントを織った。  それはただの布ではなかった。  何日もかけて羊毛を撚り、染め上げ、手で縫い合わせたものだった。 魔よけの刺繍を一針ごとに込めながら、祈りを織り込んでいく。  セリナの目は赤く
Baca selengkapnya
第3話「森の中の出会い」
 森はどこまでも深く、頭上を覆う枝葉は陽光を遮り、昼であるはずなのに黄昏時のような薄暗さを漂わせていた。  湿った土と苔の匂い、木々の間を渡る風の音――それらすべてが同じに感じられ、セリュオスは何度歩いても同じ場所に戻って来るような錯覚に陥っていた。「……やっぱり、方向感覚くらいは鍛えておくべきだったか」  額の汗をぬぐい、苦笑混じりに吐き出す。  勇者の紋章を持っているとはいえ、冒険者としてはまだ駆け出しである。  剣の重みも旅の孤独も、まだ肌に馴染んでいなかった。 そのとき――森を裂くように獣の咆哮が響いた。  低く重く、地の底から湧き上がるような唸り。  続いて、張り詰めた弦の音と、鋭い声が飛んでくる。「そこよ! いいかげん倒れなさいって!」  風が唸りを上げて矢を押し出す音がした。  その声を聞いたセリュオスは本能的に駆け出していた。 木立を抜けた先、その視界に飛び込んできたのは――巨大な影。  それはバルガル・グリズリーと呼ばれる魔物だった。 背丈は人の二倍を超え、肩の盛り上がりは岩のように厚い。  逆立つ毛並みは闇夜の針山のようで、血で濡れた爪は鋭い刃にも勝る光を帯びていた。  何本かの矢がその身に刺さっているが、効果があるようには見えなかった。 その怪物に対峙していたのは、一人のエルフの女性。  長い金髪が揺れ、しなやかな肢体は弓を引く動作に合わせて緊張と解放を繰り返していた。  碧色の瞳は凛と輝き、決して怯む色を見せない。「ぐるぅうううっ!」  猛熊が咆哮を上げて突進する。「危ない!」  セリュオスは考えるより先に地を蹴っていた。  エルフの前に飛び出し、左手を突き出す。「――《ルクス・クトゥム》!」  眩い光が広がり、宙に輝く盾を描き出していた。 直後、凄まじい衝撃が襲った。  巨体の質量が一挙にぶつかり、骨の髄まで響く圧が押し寄せる。 セリュオスの足元の土は抉れ、靴裏から震えが伝わった。  それでも光の盾は砕けず、セリュオスも膝を折りながら踏みとどまった。「はぁっ……! なんとか受けきったか……」 「ちょっと! いきなり前に現れて何してるのよ!」 すると、セリュオスが守ったはずのエルフ
Baca selengkapnya
第4話「フィオラの想い」
 セリュオスとフィオラは鬱蒼と茂る森の中を進んでいた。  視界は木々の枝葉に覆われ、陽の光はほとんど地に届かない。  落ち葉に埋もれた獣道のような細道を踏みしめるたび、靴底に湿り気がまとわりつく。  そんな心細さを抱えながらも、彼は目の前を歩くエルフの背を見失わぬように注意していた。「……本当に、こっちで合っているんだろうな?」  気まずさを紛らわすように声をかけると、フィオラはぴたりと足を止め、振り返りもせずに言い放った。「文句があるなら一人で歩きなさい。私はあなたを導いているわけじゃない。ただ、私が帰る道を歩いているだけ」  その声音には棘があった。  セリュオスは苦笑するしかない。  ――彼女がいなければ、到底この迷宮のような森を抜けることなどできないのだから。「別に疑ってるわけじゃないんだ。ただ……ずいぶん、静かすぎると思ってな」 「静か? 森なんていつもこんなものよ」  フィオラは肩越しにちらりと睨み、再び歩を進める。  しかしその言葉の端に、かすかな迷いが混じっていることをセリュオスは感じていた。 鳥のさえずりも、虫の羽音さえも聞こえない。  森という生き物全体が息を潜めているような、不気味な沈黙が辺りを包んでいた。 やがて二人は開けた道に出た。  空気が一段と重くなり、鼻を突くような焦げ臭さが漂ってきて、セリュオスは眉を顰める。「……煙の匂いがするな」 「煙……? まさかっ!」  すると、一目散にフィオラが駆け出した。  セリュオスも慌てて後を追う。「だから、早いって!」  枝が頬をかすめ、蔦が足に絡みつくのも構わず、彼女はただ前だけを見て走っていく。  セリュオスは微かに視界に入って来るフィオラを見失わないようにするだけで精一杯だった。 ほどなくして木立の間から視界が開け、そこに現れたのは小さな集落だった。 「集落……?」 崩れ落ちた柵。  黒く煤けた壁。  何かに破壊されたような家々の中は荒らされた形跡だらけだった。 地面には血の跡や、争った際についたであろう深い爪痕が残っていた。  生活の匂いは跡形もなく、代わりに漂うのは焦げた木材と鉄の錆のような臭い。  その集落は完全にもぬ
Baca selengkapnya
第5話「二人旅」
 森の奥は昼にも関わらず暗く、頭上の枝葉が厚く茂っていた。  陽光はほとんど遮られ、差し込むわずかな光の筋が、細かな塵や羽虫を煌かせている。  鳥のさえずりも少なく、代わりに湿った土を踏む二人の足音と、絶え間なく続く口論がやけに響いていた。「だから言ったでしょう! あの川は東に曲がり始めていたって!」 「いいや、あれは確かに北の方向に伸びていたね。太陽の位置を見れば、簡単にわかるだろ」 「あなたの感覚ほど信用ならないものはないわ! 気まぐれな森は私たちを騙すことだってあるのよ!」 二人は言い合いをしながらも、その歩みを止めることはしない。  先を急ぎたい気持ちは共に同じだった。 フィオラは鋭い眼差しで獣道を睨み、落ち葉に埋もれたわずかな踏み跡を読み取る。  文句は言いつつも、道を知らないセリュオスは彼女の背を見守るように一歩下がって歩いていた。  腰にかけた剣が揺れるたび、金具が小さく音を立てる。 やがて、木々の間に小川が現れた。  流れを跨ぐように丸太の橋が一本だけ掛かっている。  長い年月を経て苔に覆われ、黒ずんだ木材は湿気で膨れ、踏めばみしりと嫌な音がした。「ここを渡らなければいけないみたい。危なっかしいわね……」  そう呟くや否や、フィオラは迷わず橋へ足を踏み出した。  軽やかな足取りで、まるで自分のほうが正しいと証明するかのように前へ進んでいく。  だが、橋の中央に差し掛かったとき、木の表面に生えた苔で靴を滑らせたのか、彼女の身体が宙に浮いた。「きゃっ――!」  細い身体が横へ傾き、水面が眼前に迫っていた。  その瞬間、力強い手が彼女の腕をがっしりと掴んだ。「危ない!」  セリュオスの声がフィオラの耳を打った。  丸太の端で踏ん張ったセリュオスは、全身で彼女を引き寄せる。  ギリギリのところで体勢を立て直したフィオラは荒く息を吐いた。「……っ、もう離してよ!」  勢いよく腕が振り払われた。  だが、掴まれていた腕はまだ微かに震えているように見えた。「無理するなよ。フィオラに怪我されてしまうと俺が困る」 「……余計なお世話よ!」  フィオラは口で突き放しているが、その耳の先ま
Baca selengkapnya
第6話「ドワーフの暴れん坊」
 酒場の灯りが暖かく揺れている。  石造りの壁に吊るされたランプの火が、木の長椅子や酒樽を柔らかく照らし、賑やかな笑い声や歌声が響いていた。  酔ったドワーフたちが腕を組んで歌い、卓上では豪快に肉と麦酒が飛び交っている。 その片隅に、セリュオスとフィオラは腰を下ろしていた。  二人の前に並んでいるのは焼いた獣肉の皿と、香草を利かせた野菜の煮込み。  それを前にしながらも、フィオラは落ち着かない表情を浮かべている。「……酒臭い……」 「そうか?」 「匂いだけじゃない。声も、空気からも臭ってくる。酔っぱらいの大声なんて聞いてると、頭が割れそう」 彼女は周囲の喧噪に眉をひそめ、耳を押さえていた。  エルフの耳は人よりも敏感だから、笑い声や食器のぶつかり合う音がいっそう鋭く突き刺さるのだろう。  セリュオスは苦笑して、皿から骨つき肉を引き上げた。「慣れろよ。戦場なんてこんな騒ぎよりずっと喧しいだろ」 「戦いの場と食事の場を一緒にしないでちょうだい」 そっけない返事をしながらも、フィオラは煮込みを一口すくった。  舌に広がる味は意外に悪くないとでも思っているのだろうか。  だが、フィオラはそれを隠すように、わざと眉を顰めて見せる。  セリュオスはそれを見てニヤリと笑った。「……なんだよ、美味しいんだろ?」 「べ、別に普通に決まっているでしょう。……ただの塩味よ」 「へえ、そうかい」  わざとらしく相槌を打つセリュオスに、フィオラは頬を赤らめてグラスを傾けた。  薄い葡萄酒が喉を滑る。 そんな時、酒場の扉が乱暴に開かれた。  冷たい夜風と共に、煤と鉄の匂いをまとった大柄な影が入ってくる。 乱れた赤茶の髭、厚い胸板に煤汚れのついた作業着。  目つきは鋭く、背中には大ぶりな戦斧を背負っている。  その男は、迷うことなくカウンターに向かうと、無造作に腰を下ろして酒を注文した。「……あのドワーフ、ただ者じゃないわね」 「フィオラも気づいたか。周りのヤツらとは雰囲気が全く違うな。あれはいつ暴れ出してもおかしくないぞ」  セリュオスが低く言うと、フィオラも警戒するように視線を逸らす。 と
Baca selengkapnya
第7話「覚悟を決めたダルク」
 朝日が酒場の窓から差し込み、破損した木の梁や割れた酒樽を黄金色に照らしている。  昨夜の乱闘の跡は生々しく、倒れた椅子や割れた食器が床に散らばり、破片だけでなく酒の匂いも残っていた。 セリュオスは膝をつき、杖のように手をついて床を押さえながら、重い息を吐いた。 「……はぁ、ひどい有様だな」  そう呟くと、隣でダルクも荒い息を整えながら同意する。「まったく、昨日のオレたちは何をやってたんだ……」 「あなたたちが大騒ぎしたせいで、私まで手伝わされてるんだからね!」  フィオラは少し離れた場所で、渋い顔をしてこちらに厳しい視線を向けている。  文句は言いながらも、片付けを手伝ってくれるのは彼女の優しさだろうか。 セリュオスとダルクもお互いの顔を見合わせてから、言葉を交わさずとも言いたいことを理解し合った。  これ以上フィオラを怒らせたら、さらに面倒なことになってしまうかもしれない。  二人は黙って片付け作業に集中することにした。 ダルクは腕力を活かして壊れた椅子や酒樽をまとめ、セリュオスは床の破片やこぼれた酒や食事を掃き集める。  動作のリズムは自然と重なり、無言の協力関係が生まれたようにも思えた。 ダルクが壊れた扉を支えながら、ふと口を開く。 「……坊主、よくオレの斧をそんな剣で止められたよな。自慢の一撃を剣だけで受け止められたのは、初めての経験だったぞ」 「いや、この剣だけじゃないさ。俺には盾もあるからな。この守る力があるから、俺はどんな相手とでも戦えるんだ」 セリュオスは少し顔を顰めつつも、淡々と返す。  オルフェンの打ってくれた剣が頼りになるのは間違いないが、それ以上に盾の力のほうがセリュオスは自信を持っていた。「守る力、ねえ……」 「ほら! 無駄話しない!」  フィオラの叱責にビクッとしたダルクは斧を背に担ぎながら、また無言になって作業へと戻った。  だが、無言でいるのが我慢できなくなったのか、ダルクは少し目を細めて小声で尋ねてきた。「ところで、坊主……旅をしてるんだってな。……その目的って、何なんだ?」  セリュオスは一瞬、手を止めた。  またフィオラに叱られることになるかもしれないのに懲りないヤツだと思い
Baca selengkapnya
第8話「聖都に向けて」
 セリュオスとダルクの後ろには、静かに後ろをついて来るフィオラの姿があった。  その様子を見る限り、彼女はまだダルクのことを警戒しているのかもしれない。「……さて、坊主。この町を出たら次はどこに向かうんだ? 俺の力がどれくらい役に立つか、見せる準備はできてるぞ」 「フィオラー! そろそろこの町を出ようと思うから、いいかげん近くに来てくれないかー!」 セリュオスの声を聞いて、ようやくフィオラが近づいて来てくれる。  しかし、ダルクとは僅かに距離を取って、セリュオスの傍にやって来た。 彼女がダルクを見る目は冷たいようにも見えるが、旅の仲間としての期待も宿っているように見えた。  ただのセリュオスの気のせいかもしれないが。 そんなことを全く気にも留めていないダルクは斧を背に背負いながら、周囲を見渡している。  セリュオスは微かに笑みを浮かべ、町の出口の方を見た。「まずは山を越えて……ドワーフの町を出てからのルートを確かめようか」 「はあ……。次は聖都に向かうって言ったでしょう?」 「あれ、そうだったっけ?」 セリュオスは僅かに首を傾げた。  フィオラといつそんな話をしただろうか。  思い出そうと頭をひねっても、すぐには思い出せなかった。  とはいえ、それを正直にフィオラに伝えてしまえば怒られてしまうと思い、とぼけることにしたのだ。「誰かさんがド派手な戦いに集中しすぎて、忘れちゃっただけなんじゃないの?」 「がはははは! フィオラの嬢ちゃん、面白いじゃねえか!」 どうやら豪快に笑っているダルクはフィオラのことを気に入ったらしい。  フィオラはまだ警戒しているままなのだが。 結局セリュオスはフィオラの機嫌を損ねてしまったわけで、それは別のタイミングでカバーするしかないだろう。 そうこうしているうちに、三人はドワーフの町の石壁を抜けて、広い空の下へ出た。  見渡す限り石壁というのは面白い光景だった。 石と煙に囲まれた町から離れた瞬間、フィオラは思わず深く息を吸い込み、肩の力を抜いた。  長い間閉じ込められていた緊張から、一気に解放されたような感覚だろうか。「……ふう。やっと、自由になれた気がするわ。あの町は……私には窮屈すぎたわね」  すると、後ろからダルクが鼻を鳴らす。  大股で歩きながら
Baca selengkapnya
第9話「来客は猫」
 静かな森の夜。  それは闇の奥から小さな影がすばやく忍び寄っていた。  頭の上にある特徴的な耳に顔周りでピクピクと動く髭、キラリと光る目をキョロキョロとさせながら小走りしているのは猫人だった。  夜目を頼りにして、まさにセリュオスたちの荷物を狙っているところだ。「ふん、おみゃあら暢気に寝すぎだにゃ~。……この荷物は、ボクがいただいて行くにゃ!」  その言葉と同時に猫人は跳躍して、焚き火の周囲をグルグルと回った。 僅かな物音に気づいて目を覚ましたセリュオスは、少しだけ様子を見ることにした。  どうやらこちらの命よりも、荷物のほうが狙いのようだった。 気づかれないように慎重に歩み寄ったセリュオスはそれを捕らえようと飛びついた。  しかし、夜盗は背中に目がついているかのように回避する。「にゃに!? にゃんで、気づかれたのにゃ!」  驚愕している夜盗に対してセリュオスは即座に立ち上がって剣を抜くが、その動きは想像以上に俊敏で、攻撃はことごとく躱されてしまった。「ちっ……速いな!」 「盗っ人め! 覚悟しなさい!」  騒ぎを聞きつけて来たのか、フィオラが風の魔法を放った。  森の空気が渦を巻き、夜盗の進行を一瞬止める。「おみゃあら、手ごわいのにゃ! でも、ボクは負けないにゃ……!」  夜盗は闇の中を縫うように跳ね、にゃっと笑いながら叫んでいた。 セリュオスが斬りかかろうとするも、夜盗は軽やかに躱し、次の瞬間にはフィオラの背後に回り込んでいた。  フィオラが振り返る前に、夜盗は手にした小枝でその背中を突き、驚きの声を上げさせる。 「ひゃぁっ!?」「フィオラ……! 何をされたんだ! 大丈夫なのか!?」  セリュオスが動揺している間に、夜盗は目前に迫っており、その爪で顔を引っ掻かれてしまった。 「っう……!」「おいおい、セリュオス! 何やってんだァ!? ちゃんと嬢ちゃんを守らなきゃダメだろ!」  セリュオスは夜盗の動きに翻弄されつつも、必死に剣を構える。「……俺は……守る……!」  しかし、夜盗はさらに素早く跳ね、セリュオスの足元を潜り抜け、火の周りを縦横無尽に動き回った。「おみゃあら、遅すぎるのにゃ! もっと早く動かなきゃ、ボクは捕まえられないにゃ!」
Baca selengkapnya
第10話「猫娘の恩返し」
 三人は夜明けを待って、旅を再開することにした。  もちろん、ミュリナとはそこで別れることになった。  彼女が仲間になることを断った以上、それは当然のことだった……。 森を抜ける道は朝の光で照らされ、草木の露が靴を濡らす。  セリュオスは前を見据え、フィオラは小さく息をつきながらも隣を歩いている。  ダルクは無言のまま進んでいた。  皆が何か考え事をしながら、聖都への歩みを進めていた。 しばらくすると、セリュオスは後ろから小さな影がチョコチョコとついて来るのに気づいた。「……誰か、ついて来てるような……?」  振り返ると、茂みの中でコソコソと動く小さな猫のような姿が見えた。 「……ただの猫か?」  その瞬間、小さな影が鳴き声を上げる。「にゃーっ」  セリュオスはその声に驚き、フィオラは眉を顰める。  ダルクは口を開いて笑っていた。「……なんだ、やっぱり猫みたいだな」  しかし、その「猫」はその後も三人の後ろをちょこちょことついて来る。(……仲間になるわけじゃないんだ。ここで俺たちの後をついて来るなと突き放すのも違う気がする……)  セリュオスは何とも言えない感情を心に抱いたまま、歩き続けた。 森を抜けると、聖都へ向かう石橋が見えてきた。  木漏れ日の中、後ろをついてくる小さな影――猫のような足音が、少しだけ旅の賑やかさを増してくれている。 街道を歩き続けるセリュオスたちだが、気づかないフリをしつつも、やはり木陰に隠れてついて来るミュリナの存在が気がかりだった。「やはり、ミュリナがついて来てるよな……」 「尾行はあまり得意じゃないのかもしれねえなァ」 「素早さだけなら、この中の誰にも負けないのにね」  フィオナが悪戯な笑みを浮かべながら言った。 一行は石橋を越えて、さらに街道を進み、夕暮れが森を赤く染める頃、大木の根元付近で小さな焚き火を囲むことにした。  セリュオスは背負い袋から干し肉を取り出し、まだ隠れたつもりでいるミュリナに向かって差し出した。「ミュリナー、これ食べるか?」  だが、彼女は何かを躊躇っているのか、反応がない。  とはいえ、姿を隠すつもりはなかったらしく、のそのそと茂みの中から姿を現した。 もしかしたら、他
Baca selengkapnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status